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中小企業のAI導入は何から始めるか|業務の棚卸しと最初の1つの決め方

「AIを導入したい。ただ、何から始めればいいか分からない」という相談が増えています。

止まっている理由は、たいてい情報が足りないからではありません。AIでできることが多すぎて、自社のどこに当てればいいか決まらないからです。ツールの比較記事を読むほど候補が増えて、決める前に時間が過ぎます。

やることは逆で、先に自社の業務を見て、1つだけ選ぶことです。この記事では、その選び方と進め方を順に書きます。

  • 「AIを導入する」を目的にすると止まる
  • まず業務を棚卸しする
  • 最初の1つを選ぶ4つの条件
  • 向いている業務・そうでない業務
  • 最初の2週間でやること
  • 効果をどう測るか
  • ツールは何から契約するか
  • 1つ目が回ったあとの広げ方
  • 社内で止まるポイント
  • よくある失敗
  • まとめ

「AIを導入する」を目的にすると止まる

AI導入が進まない会社には、共通する進め方があります。

  • ツールの比較から始める
  • 全社で使うことを前提に考える
  • 導入の効果を、始める前に数字で出そうとする

どれも真面目な進め方ですが、全部やると着手が半年遅れます。ツールは数か月で変わりますし、全社で使う前提にすると関係者が増えて合意形成だけで時間が溶けます。効果の試算は、やったことがない業務については結局あてずっぽうになります。

代わりに置く目的は1つで十分です。「この業務の、この作業を短くする」。対象が1つに決まっていれば、ツールも使い方も自然に絞られます。

まず業務を棚卸しする

棚卸しといっても、業務フロー図を書く必要はありません。見るのは次の3つだけです。

見るもの 聞き方
頻度 週に何回やるか
1回の時間 1回あたり何分かかるか
戻りの多さ 作り直しや確認待ちが何回入るか

A4の紙に、部署ごとの業務を思いつくまま20〜30行並べて、この3列を埋めます。所要時間は30分ほどです。正確な数字は要りません。「週5回・30分・戻り2回」程度の粒度で十分です。

このとき、作業を細かく分けて書くのがコツです。「請求書対応」ではなく「請求書の下書き作成」「金額のチェック」「送付」と分けます。AIが効くのは業務まるごとではなく、その中の特定の作業だからです。

棚卸しを誰がやるかですが、実際にその作業をしている人に書いてもらうのが早いです。管理職が想像で書くと、実態と時間がずれます。

最初の1つを選ぶ4つの条件

最初に選ぶ業務の4つの条件

棚卸しした一覧から、次の4つを満たすものを1つ選びます。

条件 理由
毎週ある 効果が早く見える
下書きが要る AIの得意な形
間違えても戻せる 試しやすい
1人で完結する 調整が不要

4つのうち、いちばん外せないのは「間違えても戻せる」です。 最初の1つで事故を起こすと、社内の空気が一気に冷えます。送信前に人が見る、公開前に確認が入る、といった工程が元から入っている業務を選びます。

逆に、効果が大きそうな業務を最初に選ばないことです。効果が大きい業務は、たいてい関係者が多く、判断も重く、失敗したときの影響も大きい。1つ目の目的は成果ではなく、社内に「これなら使える」という実例を1つ作ることです。

向いている業務・そうでない業務

業務 向き
文章の下書き 向く
要約・議事録の整理 向く
表記ゆれの統一 向く
案出し・たたき台 向く
翻訳の下訳 向く
社内資料の体裁づくり 向く
事実関係の調査 条件付き
数値の集計 条件付き
最終判断 向かない
社外に出す文章の確定 向かない

「向く」に共通するのは、人が見れば正しいか分かるものです。下書きが変なら書き直せばいいだけで、損失は数分です。

「条件付き」の2つは、出てきた内容が合っているかどうかを別の方法で確かめられる場合のみ使えます。調査なら一次情報にあたる、集計なら元データと突き合わせる。確かめる手間のほうが大きければ、やらないほうが早いです。

「向かない」は、間違いに気づけないものです。最終判断や社外に出す文章は、AIが自信をもって間違えたときに止める仕組みがありません。ここは人が決めます。この線引きは生成AIの社内ルールでも整理しています。

なお、この一覧はあくまで目安です。同じ業務名でも、社内で止まるか社外に出るかで答えは変わります。自社の業務に線を引く手順はAIに任せてよい業務・だめな業務の分け方にまとめています。

制作のような、見た目のあるものを作る業務でも線引きは同じです。弊社がAIで自社サイトを作ったときの、任せた工程と人が決めた工程はAIでサイトを作るときの注意点にまとめています。

最初の2週間でやること

最初の2週間の進め方

選んだ1つを、2週間で回します。長い計画は要りません。

1〜3日目:今のやり方を書き出す その作業を、今どういう手順でやっているかを箇条書きにします。5〜10行で十分です。ここが曖昧なまま始めると、AIへの指示も曖昧になります。

4〜5日目:指示文を作る AIに渡す文章を作ります。ポイントは、毎回ゼロから書かず、使い回す形にすることです。「立場・やってほしいこと・材料・出力の形・守る条件」の5つを並べた型を1つ作り、材料だけ差し替えて使います。

6〜10日目:1人で毎日使う 選んだ本人が、実際の業務で毎日使います。この期間はうまくいかなくて構いません。うまくいかなかった点をメモに残すことが目的です。指示文を直すたびに結果は良くなります。

11〜14日目:型を固めて、もう1人に渡す 指示文と手順を1枚にまとめ、別の人に同じ作業をやってもらいます。ここで初めて「他人が使えるか」が分かります。 自分だけ使えている状態は、導入ではなく個人の工夫です。

効果をどう測るか

最初の1つでは、金額ではなく次の3つを見ます。

  • かかった時間|前は何分、今は何分。ストップウォッチで2〜3回測れば十分
  • 戻りの回数|作り直しや確認待ちが何回減ったか
  • 使った回数|2週間で何回使ったか

いちばん大事なのは3つめです。 時間が半分になっても、週1回しか使わない作業なら会社は変わりません。逆に、1回あたり5分の短縮でも毎日使うなら効果は積み上がります。

金額換算を求められたときは、時間の短縮分に時給をかけた概算で十分です。精緻な試算は、2つ目・3つ目を増やす段階で考えます。

ツールは何から契約するか

ツール選びで迷う時間は、ほとんど無駄になります。最初は1つに絞ります。

決めるのは次の3点です。

  • 法人向けのプランかどうか|入力した内容が学習に使われない設定になっているかを確認します
  • 誰が使うか|最初は1〜2人分で構いません
  • 管理者を誰にするか|契約・支払い・アカウント発行を1人に寄せます

無料版と法人版が社内に混在する状態がいちばん危険です。設定が揃っていないので、どの情報を入れていいかの線引きが人によって変わります。 1人目が無料版で始めて、そのまま社内に広がった、という形は避けます。

ツールの乗り換えは後からできます。指示文の作り方や業務の切り分け方は、どのツールでも使い回せるからです。最初の選択を重く考えなくて構いません。

1つ目が回ったあとの広げ方

1つ目が定着したら、次は同じ部署の隣の作業に広げます。いきなり別部署へ展開しません。

理由は、使っている人が教えられる範囲でしか広がらないからです。隣の席の人が困ったときにすぐ聞ける距離なら、広がります。別部署に資料だけ配っても、たいてい使われません。

広げる順番の目安は次のとおりです。

  1. 同じ人の、別の作業
  2. 同じ部署の、別の人
  3. 隣の部署の、似た作業
  4. 全社共通の作業

4まで来たところで、社内ルールを文書にします。 使う人が数人のうちは口頭で足りますが、部署をまたぐと判断がばらつきます。決める項目は生成AIの社内ルールにまとめています。

広げる途中で止まることもあります。数か月経って動きが無くなったときの原因と戻し方は社内でAIが使われない理由にまとめています。

社内で止まるポイント

実際に止まるのは、ツールの性能ではなく、次の3つです。

1つめは、担当者が本業で手いっぱいなこと。 「空いた時間でやって」と頼むと、空いた時間は来ません。最初の2週間だけでも、週に2〜3時間を業務として確保します。社内に確保できる人がいない場合は、外部に継続的に入ってもらう形もあります。都度の発注と月額で頼む形の違いは定額制(サブスク)デザインサービスとはで整理しています。

2つめは、失敗を報告しづらい空気。 試した結果うまくいかなかったことを言える場がないと、誰も試しません。「うまくいかなかった例を集める」と最初に言っておくと変わります。

3つめは、経営層が使っていないこと。 使っていない人が効果を聞くと、現場は「成果を出さないと怒られる」と受け取ります。判断する立場の人が自分で1度触っておくと、会話が早くなります。

この3つは、AIに限った話ではありません。新しいシステムを入れたのに現場で使われない、という状態も原因は同じところにあります。画面側から見た定着の条件は生産管理システムが現場で使われない理由に書いています。

よくある失敗

  • 全社説明会から始める|使う場面が決まっていない状態で説明しても、各自が自分の業務に当てはめられません
  • 複数の業務を同時に試す|どれも中途半端になり、どれが効いたか分かりません
  • 効果の試算を先に求める|やったことのない業務の試算は精度が出ず、数字合わせに時間を使います
  • ツールの比較に1か月かける|その間に仕様が変わります
  • 詳しい人だけに任せる|その人が異動したら止まります
  • 「AIに置き換える」と言ってしまう|現場が守りに入り、協力が得られません
  • 出てきたものを確認せず使う|1回の事故で、社内の信用がなくなります
  • 1回やって終わりにする|使い続けないと指示文が良くなりません

まとめ

  • ツール選びではなく、業務の棚卸しから始める
  • 棚卸しは頻度・1回の時間・戻りの多さの3列だけ。作業は細かく分けて書く
  • 最初の1つは「毎週ある・下書きが要る・戻せる・1人で完結する」で選ぶ
  • 効果が大きそうな業務を1つ目にしない。実例を1つ作ることが目的
  • 2週間で回す。最後にもう1人へ渡して、他人が使えるかを確認する
  • 測るのは時間・戻りの回数・使った回数。使った回数がいちばん大事
  • ツールは法人向けプランを1つ。無料版との混在を作らない
  • 広げるのは同じ人の別作業から。部署をまたぐ段階でルールを文書にする

京都市南区の株式会社HSEは、自社の制作業務にAIを組み込んで運用しています。判断は人、作業はAIという分担です。制作実績はこちらをご覧ください。

社内でどの業務から始めるかの整理はAIの相談窓口でお受けしています。業務の棚卸しに同席して、最初の1つを一緒に決めるところからで構いません。お問い合わせからご連絡ください。

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